2023年 2月 の投稿一覧

PCケースは本当に「大は小を兼ねる」なのか

現状、ゲーミングPCのフォームファクターとしては「ATX」「micro ATX」「mini ITX」の3種が大半を占めています。

当然、PCケースもこの3つに対応できるように作られているのですが、「ATX対応のタワー型を買っておけば、3種ともいける」という方がいます。

実は私も昔はそう考えていましたし、PCケースは「大は小を兼ねる」ものだと思っていました。しかし、ちょっと事情が異なるようです。

PCケースが「大は小を兼ねる」とは言えない理由

10年ほど前までは、PCケースは大きければ大きいほど使い勝手が良かったのです。

見た目の問題を考えなければ、安くて拡張性が高く、冷却も静音化もやりやすいのがタワー型のATXケースでした。

ATXに対応できるミドルタワー型ケースは、micro ATXやmini ITXマザーボードの取り付け穴もサポートしていることがあり、どんなフォームファクターでもゲーミングPCとして成立したのです。

今もこの傾向はありますが、10年前に比べるとちょっと事情が変わってきています。その原因としては、以下3つが挙げられます。

PCパーツの高性能化

CPUもGPUもマルチコア化が進み、10年前に比べると圧倒的に性能が良くなりました。もはやCPUはCore i3やRyzen 3クラスの性能で大半のゲームタイトルをプレイすることができます。

エントリーグレードのCPUでも4コア以上が当たり前になっているので、ゲーム用途以外では性能の50%も使いません。

さらにGPUは4Kやレイトレーシングにこだわらなければ、2世代前のミドルレンジクラスで十分です。こうした廉価・高性能なパーツは冷却もそこそこで良いので、スペースも最小限で問題ありません。

大型のCPUクーラーも3連ファン搭載のグラボもほとんど必要ないのです。リテールクーラーとシングルファンのグラボで十分ならば、ケースも小さくて良いですよね。

マザーボードのスロット数も最小限で問題ない

以前は、グラボの2枚刺しやメモリの4枚差しが当たり前にように行われていたので、マザーボードもATXサイズのものがよく売れていました。

しかし、今はグラボは1枚、メモリは2枚でまったく問題ありません。特にメモリは8~16GBのモジュールがとても安くなったので、2スロットで十分になっています。

となれば、自然とマザーボードもmicro ATXやmini ITXでよくなるわけで、ATXサイズに対応するミドルタワー型のケースは無用の長物になりがちなのです。

5インチベイの需要がほぼ消滅した

昔は5インチベイにHDDや光学ドライブ、ファンコンなどを仕込んでいたので、5インチベイを多数搭載できるミドルタワーはとても人気がありました。

しかし、ご存じのように5インチベイはもはや使い道がほとんどありません。M.2 SSDはマザーボードに設置しますし、SATA SSDは全面パネル付近にさっと設置すればよいだけです。

ミドルタワー型PCケースとそれ未満の小型ケースの最も大きな違いは5インチベイの有無(と数)でしたので、「大きさ=高機能」ではなくなってしまったのです。

大型PCケースは今後なくなるのか?

ということで、PCケースに関しては「大は小を兼ねる」とは言い難い状況ですね。今後はなくならないにしても、数は減っていくのかもしれません。省スペース性やインテリアとしての質感などは、小型PCケースのほうが上ですから。

ミドルタワークラスのPCケースを使っている方は「何年も前に購入し、中身だけが入れ替わっている」という場合が多いように思います。実は私もそのひとりです。

スチール製のミドルタワーは非常に造りが頑丈なので、何年たっても壊れず、静音性も落ちません。しかし、年に何回かは小型のスタイリッシュなケースに変えたいなと思うことがあります。

極論を言えば、PCケースは長さ40センチのグラボまで対応できるなら、大きさは自由に決めて良いですからね。ミドルタワーでなきゃ拡張性は確保できない!というのは昔の話になりつつあります。

HDD大容量化のカギを握る「HAMR(熱補助型磁気記録)」とは?

M.2 SSDが低価格化する影で、HDDがひそかに現在も進化し続けています。HDDはOptiNANDなど新しい技術の採用で、大容量化が進んでいるのです。

今回もHDD大容量化のカギを握る技術のひとつである「HAMR(熱補助型磁気記録)」について紹介いたします。

「HAMR(熱補助型磁気記録)」とは?

「HAMR(熱補助型磁気記録)」とは、Seagateが開発したHDD大容量化のための技術です。

2018年ころから知られるようになったこの技術は、HDDの大容量化、特に16TBの3.5インチHDDの製品化に貢献しました。2023年現在でも開発が進んでおり、第2世代HAMRとして最新のHDDに採用されています。

「HAMR(熱補助型磁気記録)」は、データの記録時にプラッタ(HDDの内部にある円盤状の記録装置)を加熱し、面密度を高めることでデータを記録する容量を多くするという技術です。

もう少し具体的に言うと、磁気ヘッドにレーザーを照射して過熱し、磁気的な安定性を保持したじょゆたいでデータの記録密度を高めているのだとか。

ちょっと私も明確にイメージできていないのですが、要はレーザーの過熱によって高容量化を果たしている独自技術、ということですね。

「HAMR(熱補助型磁気記録)は開発当初、一般のPC用HDD向け技術ではありませんでした。もともとは、大型データセンターに配備されるアクセス頻度が少ない大容量ストレージ向けの技術だったそうです。

つまり企業向けの技術だったわけですが、だんだんと廉価版のHDDにも適用されるようになり、今では一般のPC用HDDにも取り入れられています。

HAMR搭載のHDD容量はどのくらい?

すでにウェスタンデジタル社では、OptiNANDを採用したHDDとして20TB以上の大容量モデルを販売しています。

これに対してSeagateも同じく20TBクラスの製品を販売していますが、同社のロードマップによればHAMRを採用することで50~100TBクラスのHDDも開発可能だそうです。

具体的には2026年に50TB、2030年には100TB超のHDDを提供すると発表しています。

ちなみに競合である東芝は、2023年に30TB以上のHDDも発売予定とのことで、HDDの大容量化は今後数年で一気に進みそうですね。

超大容量のHDDは非常に使い勝手が良い

実は私も最近、HDDを再び購入しました。SATA SSDとM.2 SSDはいわゆる「PC内部で頻繁にアクセスされるデータ」の保管場所として使うことにし、その他のデータはすべてHDDベースのNASに移行したのです。

20TB超の容量が簡単に手に入る時代ですから、めったにアクセスしないデータの置き場としてHDDは極めて優秀。

私の場合はNASにしましたが、3.5インチベイが余っているのならSATAでつないで内蔵してしまってもよいと思います。

1か月に一度、もしくはそれ以下の頻度でしか参照しないようなデータは全てHDDに押し込めるようにすると、SATA SSDとM.2 SSD内が非常にすっきりします。

また、スマートフォンのSDカードを圧迫している写真もすべてHDDに移行しておけば、わざわざ高いSDカードを頻繁に買い替える必要もありません。

その他、過去にプレイしていたゲームタイトルのプレイ動画や、ダウンロードした動画、スキャナで取り込んで画像データ化した資料なども保管しておけますね。

とにかく、めったなことでは容量不足にならないので、容量を気にせず何でも放り込んでおけるのは本当に便利です。

20TBクラスはまだまだ高価ですが、10TBならば2.5~3万円で買えてしまうので、一度購入すれば数年はデータストレージとして使用できます。

HAMRやOptiNANDなどでHDDが進化するにつれ、20TB超のHDDもどんどん安くなっていきそうですね。

すでに200タイトル超え?DLSSはどこまで普及するか

NvidiaのRTXシリーズが登場して以降、レイトレーシングとともに注目された「DLSS(ディープ・ラーニング・スーパー・サンプリング)」。

DLSSをしっかり活用できれば、GPUの処理能力を節約しつつ、フレームレートや画質を向上させることができます。

しかし、私の周囲ではレイトレーシングと同じくらい、「DLSSをちゃんと使っている」人を見かけません。果たしてDLSSは今後、しっかり普及していくのでしょうか。

DLSSの理論はゲーマーの夢をかなえる!しかし実情は…?

まず、DLSSについて簡単におさらいしておきましょう。

DLSSの正式名称は「ディープ・ラーニング・スーパー・サンプリング」です。要は「機械学習(の一種であるディープラーニング)によってフレームごとの描画を学習する」という仕組みが根底にあります。

もう少し詳しく説明すると、

  • 同一シーンの中で高画質なフレームと、低画質なフレームを比較する
  • 高画質なフレームの特徴を学習し、低画質なフレームの描画時に反映させる
  • 最終的に低画質なフレームは高画質なフレームの特徴を持つようになる=すべてのフレームが高画質(っぽく)なる

という仕組みですね。これが何をもたらすかというと、低画質なフレームを描画するときと同じ処理コストで、高画質な描画ができます。

また、画質の高さからするとフレームレートが良い(=動作が軽い)という印象を持つ人も多いようです。まさに「低い処理能力でも段々綺麗になる」という都合の良い技術なのですが、実際はなかなかうまく動かないことも多いそうで…。

私の友人曰く「DLSSを有効にすると遅延が生じたり、エイムの精度が下がるときがある」とのこと。これはあくまでも一例ですが、理論上は優れているDLSSも成熟までには時間が必要なようです。

進化するDLSS、ついに第三世代へ

しかしDLSSは継続的に改善が進められており、RTX40シリーズでは「DLSS3」として実装されるとのこと。

今のところDLSS3が使えるのはRTX40シリーズのみです。「最新のグラボじゃないと使えないなら意味がない」と考える人もいそうですが、対応しているタイトルならばかなりの効果が見込めるようですね。

DLSS3の特徴は、「従来の比較学習に加えてフレーム生成も行う」という点です。DLSS2比で最大4倍のパフォーマンスとも報じられています。

また、フレーム生成時に発生する遅延については「NVIDIA Reflex」という遅延低減処理の統合でカバーするようですね。この技術により、DLSSを使わないモードと同じようなプレイが可能になるとのこと。

ちなみに、DLSS対応タイトルは着実に増えています。登場した当初は数十タイトルでしたが、2022年夏時点で200タイトルを超え、現在も増え続けています。

Nvidiaの動向を見ていると、どうやらDLSSには本気で取り組んでいるようで、技術開発と普及を同時に進めていますね。一過性の技術にするつもりは無いように見えます。

DLSS対応グラボはそろそろ買い時かもしれない

2022年夏ごろから本格的にグラボの価格が落ち着いてきており、2023年は「買い時」になる可能性が高いです。

DLSSがどんどん成熟し、対応タイトルも増えている今だからこそ、DLSS対応グラボを購入しておきたいですね。実は私もRTX30シリーズのどれかを買い増ししようかなと考えています。

ただ、もう少しRTX40シリーズが安くなってくれれば良いのですが…。これは時間がかかりそうなので気長に待つか、割り切って買ってしまうかしかなさそうですね。

本当はコスパ高い?Radeon はなぜ不人気なのか

CPUはIntel、グラボはNvidiaという組み合わせは昔からゲーミングPCの鉄板です。しかし、グラボといえばRadeonという時代もあったのです。

現在はゲーム用途=Nvidia(RTX、GTX)というイメージが先行していますが、実はコスパで見るとRadeonも結構優秀です。にもかかわらず、なぜRadeonはここまで不人気なのでしょうか。

ゲームのNvidia、クリエイティブのRadeonという棲み分け

20年以上前から、Nvidiaのグラボはゲームに強いという風潮がありました。その一方でRadeonは発色の良さからクリエイティブ系に強いと言われていました。

クリエイティブ系とは、静止画の加工やグラフィックデザインなどですね。この風潮は現在でも一部受け継がれており、フレームレートを求めるならNvidia、見た目の良さを取るならRadeonと考える方が多いようです。

しかし、今ではこの棲み分けもあまり意味がないように思います。現在はどちらも得意・不得意の差がありませんし、一定以上のランクならばゲーム用途で大差がつくこともありません。

この状況はすでに10年近く前からあり、「予算と要求性能を満たすならば、NvidiaでもRadeonでも好きなほうを買えばよい」というのが私の意見です。

Radeonが圧倒的に不人気な理由

一部のモデルはNvidiaに匹敵(もしくは凌駕)しているにもかかわらず、Radeonのグラボは不人気です。

ネット上の意見を総括すると

  • そもそもBTOパソコンに組み込まれないので使う機会がない
  • Nvidiaばかり触れてきたのでRadeonの事情をよく知らない
  • 中古で売却するときにNvidiaよりも価格が下がりやすい

といった内容が多く、これらがRadeon製グラボの不人気の原因とも言えます。また、ドライバの熟成がNvidiaよりも遅く、トラブルが多いという意見もありましたね。

これに加えて、ゲーム開発企業の多くがシェアの高いNvidia製グラボを想定して開発を進めるため、Radeonのグラボではパフォーマンスが出にくいのでは、という意見も見られました。

実際にレイトレーシングが効くタイトルでは、専用コアを積んでいるNvidiaのグラボのほうがパフォーマンスは出やすいですね。

ちなみにAIやVRといった先端分野でもNvidiaがリードしており、Radeon製のグラボはやや遅れを取っています。

不人気ゆえにコスパが高いグラボもある

学術や研究用途はさておき、ゲームや動画関連に限って言えば、Radeonのグラボは高コスパなモデルがあります。

例えば、「RX6700XT」や「RX6600XT」は、レイトレーシングさえ使わなければ非常にコスパが高いです。

RX6700XTに関して言うと、DX12環境でのベンチマークスコアはRTX3070に匹敵する一方、価格は20%も安いという結果があります。

・RX6700XT 12GB GDDR6(384GB/s):実売価格6万円前後
・RTX3070 8GB GDDR6(448GB/s):実売価格75000円前後
※2023年2月時点

消費電力はほぼ同じ(230Wと220W)でありながら、メモリの搭載量はRX6700XTのほうが上(GDDR6 12GB)です。

データ転送の帯域幅ではRTX3070に分がありますが、こちらはGDDR6 8GBであり、単純なメモリ量で言えばRX6700XTの圧勝。

おそらく知名度の低さや、レイトレーシングの性能がRTX3070比で4割も低くなってしまうことが安さの理由なのかなと思います。

しかし、私のようにほとんどレイトレーシングを使わないユーザーにとっては、有望なアップグレードパスですね。

Radeonはどの世代にもNvidiaを凌ぐコスパのモデルがありますので、ぜひ探してみてください。